年末は父と。
大晦日の夕方でした。
私は夫と、おせち料理の折りを持って実家に向かっていました。
「実家でご飯を食べる」
ただそれだけの事です。
普通は。
でも家は母がいます。
とんでもなく普通でない母が。
無事何事もなく食事が済むだろうか。
でも、父のために、今年は大晦日にご飯を食べるんだ。カチコミにでも行く勢いです。
母が恐ろしい。
トイレの回数を数え、水の無駄と怒るかも知れない。
また私のカバンを漁るかも知れない。
何か無くなったと後で言われるかも知れない。
でも父とご飯を食べたい。
三年ぶりか、実家の台所に上がりました。
懐かしくもなんともなく途方もいなく乱雑な空間。カビと腐臭の混じった臭い。ちゃぶ台は食べかけの物とゴミ。ゴミであれ処分すれば怒り狂う母です。ゴミを重ねてまとめて寄せ、食事のスペースを作ります。調味料も基本古いのでわさびも持参しました。このわさびが後々の話に出てくるかも知れません。
そんな中でも折り詰めを広げると食卓が華やかになりました。
母にはお茶を入れ父には湯割りを作りました。
治療中ではありますが、一杯だけ飲もうと誘いました。「ほんとに飲んでもいいかな?先生に怒られないかな?」と父。「一杯だけね」と再度進めると「おそろしいな。おそろしいから飲んでしまおうかな」と落語の「饅頭怖い」のようなことを言うので夫と大笑いしました。
そこから緊張はほぐれ父と治療のことなども話しました。
父は前向きでした。「先生の言うことを聞いて治してもらう。まだ死なない。」と。
私もこんなに前向きなら治療も上手くいくと思いました。まだ父との時間はある。と希望すら持ちました。
「落ち着いたら沢山飲もう」
と約束しました。
父と盛り上がって、母の機嫌を取れていませんでした。
母が「紅白がつまらない」「TVがつまらない」とチャンネルを変え続ける動作をはじめました。イライラしている様子です。20回くらいチャンネルを変えてから私の方向を向いて言いました。
「紅白が面白くない」
目が見開いていました。
やばい。帰らなくては、と思いました。
そこから白々しく「そろそろ帰るわね。遅くまでごめんなさい。」と挨拶し、父に、「また飲もうね。」と言いました。父がニコニコと「またね」と言ってくれました。
最後の会話になりました。